鹿児島県曽於市の放牧養鶏場

サテライツ

見学日:2017年5月

 

「鶏に対して、礼節を忘れないようにしています。」サテライツ代表の川原嵩信さんはそう言います。

「鶏は体の小さな生き物です。
これから迎える夏は、体温が平均42°C前後の鶏にとって 命がけで越えなければならない大変な季節です。そして、秋の初めから、翌年の5月までは間断なく鳥インフルエンザの緊張が続きます。
ストレスの少ない環境で 体力を落とさず 自分自身の寿命まで生きてほしいという私たちの願いに今の自然環境は厳しいものの、そのような季節を乗り越えて産んだ卵を分けてもらっている以上、私たちは鶏の健康維持を支援し、人間の思惑の介入で生きづらくならいよう 彼らに対する礼節は忘れないようにしています。」      

鶏への思いは彼らの飼育環境に反映されています。

川原さんの一日は、朝、鶏のご飯を買いに行くことからはじまります。出来立てのオカラです。鶏たちには新鮮で旬な食べ物が与えられ、ストレスが無い生活がおくれるよう配慮されています。

 

農場は約750平米(約227坪)の庭で65羽 の放し飼い。雄鶏は65羽のうち12羽。

群れはボス鶏を中心として、自由な生活をおくっています。あちこちに藁や草、土などの突ける材料がふんだんにあり、鶏は好きな場所で砂浴びができます。止まり木になる場所もあちこちにあります。

ここでは鶏同士のツツキが発生していません。

夜は野生動物に襲われるのを防ぐために 倉庫(40平米 寝床 止まり木有り)に移動させ、鶏は早朝までそこで休みます。

 

 

終生飼育

採卵用に飼育されている鶏は1~2年で「廃鶏」として屠殺されます。しかしサテライツの鶏は終生飼育です。

「農場には、今年で生まれて約7年目の長老と呼んでしる雌鶏がいます。雄のボス鶏は、約5年目を迎えました。若鶏を教育しグループをまとめ上げるまで成長した彼らの姿をみると、上手く年齢を重ねて来たんだなと思い、つくづく良いパートナーに出会ったと思います。」

そういう思いが、経済動物と言われる鶏の終生飼育につながっています。

農場には廃鶏にされるところを引き取られた鶏もいます。

「できるだけ命を助けたい」と川原さんは言います。

 

現在の農場のボスも廃鶏寸前の時に 引き取られた鶏です。引き取り後しばらくして鶏たちのボスになり、一度陥落して、再びボスの座に返り咲いたという猛者です。穏やかな落ち着いた性格で、グループ内の鶏からの信頼がとても厚いそうです。

サテライツのボス鶏
サテライツのボス鶏

オスの鶏も同じです。オスは卵を産まないため、普通の養鶏業ではオスの雛は殺処分されます。しかしこの農場ではオスもメスと一緒に終生飼育されます。

「人間はとても弱い生き物だと思っています。卵を産まないからという理由でオス鶏を殺生すると、何かの理由をつけては、殺生を繰り返すことになります。何より、私共は性格的にできない。それも大きな要因です。」

川原さんはそう言います。

 

デビーク

ここで産まれた鶏たちはデビーク(クチバシの切断)もされていません。鶏にとってのクチバシは人間の手足にあたる重要な部分です。

「鶏が、嫌がること 痛がること 本能を無視することはしない」というのがこの農場のスタンスです。そもそもこの農場では、鶏たちはストレスなく自由に歩き回れるので、お互いをつついて傷つけ合うということをしません。鶏たちはクチバシで、草や枝きれなど気になるものを思う存分つつき、餌を探しては地面をつつきます。

 

(ただし、サテライツには里子として引き取られた鶏もおり、もともとデビークされているものもいます。また一度だけ去年の夏に購入した鶏にデビークされたものがいたそうです)

 

1個100円

普通の養鶏では鶏が病気や怪我をしても治療や手当はされません。養鶏の専門書はたくさんありますが、鶏を「終生飼育する養鶏」の専門書はありません。現代の養鶏業において鶏は治療する対象ではなく、病気や怪我になれば処分する対象だからです。しかしサテライツでは病気の鶏は隔離され、看護されます。「どうすれば鶏を長生きさせられるのか」というマニュアルがない中、手探りでこれにとりくんでいます。

 

農場での産卵数は普通の養鶏業に比べて低いものとなっています。サテライツでは鶏に産卵を強制せず、夏場冬場は体力を温存させることに注力するためです。

 

一個100円の卵を高いと感じる人もいるかもしれません。しかしその価格はそのまま鶏への配慮に反映されています。

 

限界集落の中での新しいビジネスモデルとして

サテライツでは、自分のところで鶏を飼育するだけではなく、近所の民家で鶏を飼ってもらうという「庭先養鶏」の委託も行っています。庭先養鶏とは川原さんの農場で行っているような、少数の鶏を農家の庭先で自由に運動や食事ができる環境で育てる養鶏のことです。

委託先の卵を買い取りサテライツで販売する。こういった地元住民の収入にもつながる新しいビジネスモデルにもチャレンジしています。新たな産業のない限界集落において、この「庭先養鶏」ビジネスは新聞などでも取り上げられ注目されています。

かつては裏庭で副業として鶏を数羽飼い、卵を売る。そんな庭先養鶏が普通のスタイルでした。ケージという羽ばたきもできない狭い檻に鶏を閉じ込めて卵をとりつづける。鶏をこのようにあつかうことは昔では思いつきもしなかったでしょう。しかし現代の養鶏のほとんどはケージ飼育です。そこにあるのは人間と鶏との良好な共存関係からほど遠く、「卵をいただくならば鶏への礼節を忘れない。」という道徳を見出すことは困難です。

 

生産効率を追い求めていった結果、私たちは知らず知らずのうちに命あるものへの配慮を忘れてしまったのかもしれません。サテライツの農場では鶏がクチバシで地面をあちこちつつき、時に走り回り、大変忙しい一日を過ごします。オス鶏たちは、群れが日向ぼっこしているときも、食事中をしているときも、警戒を怠らずすっくと立って周りに注意を払います。育ての親鶏の後を雛がついて歩く様子、親鶏が雛を注意深く見守っている様子、そういった光景は、現代社会の中で私たちが鶏から何を奪ってしまったのか、鶏と人との関係はどうあるべきなのか、私たちに問いかけてくれます。 

現在(2017年7月時点)サテライツで購入できる卵は、川原さんの農場のものと委託先一軒のものです。委託先も終生飼育をする農場です。

 

ただ、今後委託先が増えて行った時、販売されるすべての卵が終生飼育とは限りませんので、気になる方はご確認ください。

 

写真はすべてサテライツの農場のもの(2017年7月撮影)

 

 

 

神奈川県小田原市の自然養鶏場

春夏秋冬

見学日:2015年5月

 

「バタリーケージ飼育をしないのは、鶏本来の習性を尊重したいから」
春夏秋冬の檀上さんはそのように言う。
人の都合ではなく「鶏都合」で飼育する、それが檀上さんの考え方だ。

春夏秋冬の鶏は屋内と屋外を自由に行き来できる。鶏たちは好きな場所で砂浴びをし、屋外の草をついばみ、日向で羽根を広げて虫干しする。
飼育密度は、1羽当たり1㎡以上の広さを確保している。その広さは写真で確認いただきたい。

体が大きく、とさかが立派なのはオス。

オスがいるのは「有精卵」として売るためではなく、群れの安定を保つためだ。
「危険を知らせて見守り統率するオスが、鶏の社会には必要」と檀上さんは言う。

食べ物は自然界において本来鶏が食べるだろうというものが給餌される。一般的なバタリーケージで与えられる高カロリーの濃厚飼料ではなく、自家製の発酵飼料、腐葉土、無農薬の野菜、放牧場に咲くヒマワリなどを食べて鶏は育つ。
 
自由に歩き回り本来の習性が発揮できる環境は、鶏の免疫力を高め、春夏秋冬では抗生物質だけでなく、ワクチンも一切使われていない。「自然治癒力に任せる」檀上さんはそういう。
養鶏をはじめてから今まで、病気が感染して大量に死んだということは一度もない。

成鶏を導入する農家もいるが、檀上さんは「親鶏から引き継いだ免疫力がある孵化後10日間のうちに大地にいる様々な菌に触れさせ、感染しても発病しない状態を目指すことが大事」だと、鶏を初生ひなの段階から導入している。

ひな達は、近くの山の腐葉土から作られた発酵床の上で飼育される。

もちろんデビークもしていない。「鶏都合」で飼育しているからだ。クチバシを切られては、地面を思うようにつつけないし野菜を噛み切ることもできなくなってしまうからだ。

 

「鶏を不幸にしてまで利益を上げたいとは思わない。」

アニマルウェルフェアの立場を明確にする檀上さんは、自分がきちんと管理し、自らが最後の最後まで責任を持てる数しか飼育しない。90数羽で飼育される鶏たちは生き生きと、鶏本来の姿を私たちに見せてくれる。

大阪府南河内郡の平飼い養鶏場

タナカファーム

見学日:2014年2月

一㎡当たり2.4羽の屋内での平飼い。

 

写真でわかるでしょうか。ここはとても広く、鶏が生き生きとしています。

羽つやがよく、鶏冠はピンと立ち、目や口の下の部分の肉垂れが、きれいな色をしています。とまり木の上で、休んでいる鶏がいます。

奥に設置されているのは巣です。写真の赤い垂れ幕の奥が巣になっていて、朝、鶏はそこへ卵を産みにいくことができます。

砂の中で砂浴びをしている鶏もいます。

白いのはオスの鶏です。背筋を伸ばして堂々としています。

 

鶏たちの餌は発酵したいい匂いがして、人の食欲もそそります。ノンGM、有機無農薬、ポストハーベストフリー。わかめの一番良い部分をとったものも餌に使われています。むしろ私たちが毎日食べているものより良い物を鶏は食べています。飲む水はイオンと炭で処理したもの。わたしも飲ませ てもらいましたが、体にすうっとしみわたるような感じでした。

鶏には生草もあたえられています。そのための牧草地もタナカファームは持っており、2日に一度、新鮮な牧草を鶏は食べることができます。

どれも、現在の工場式畜産、バタリーケージ飼育されている鶏にはかなわないものです。 大規模なバタリーケージ養鶏場では、数十万単位で鶏が飼育されていますが、タナカファームは1500羽。

デビークは行われています(仕入れの段階ですでに行われている)。

強制換羽は行われていません。

養鶏場には独特の臭いがあるものですが、この農場にはそういう臭いがなく、鶏糞を手にとって嗅ぐと良いにおいがします。 タナカファームの卵には臭みがまったくありません。 福祉に配慮された環境と、良い餌は、おいしい卵につながっています。